2005-10-05

自然選択の最適化能力とその限界 自然選択の最適化能力とその限界 - Nao_uの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 自然選択の最適化能力とその限界 - Nao_uの日記 自然選択の最適化能力とその限界 - Nao_uの日記 のブックマークコメント

代謝量というのは人によってそれなりのばらつきがあるだろうけれど、何かのきっかけでそれが度を超すとこのような症状になってしまうらしい。たまたま冷蔵庫や冷却スーツが用意できるような恵まれた環境にある人であれば生存可能だけど、そのような対処ができなければ原因不明の高熱でそのまま死亡、という事になってしまうのだろうか?怖い病気だ。

それでも、もし地球が氷河期に入ったならば、このような代謝異常を持った人のみが生き残れるような世界になってしまう可能性もありうる。また、もしそのような状況で人類が滅亡せずに世代交代が進めば、その特性はもはや「異常」ではなく、「適応」とか「進化」などと呼ばれるものになるのだろう。

本当に'ジャンクDNA'配列が存在しているという(現在では想定された時ほど一般的とは考えられていない)事実は、ポピュラーな科学では一般的に考えられている、よりエネルギーを維持するような自然選択の要求はそれほど厳しくないことを示唆している。

よくわかっていないので素人考えで適当なことを書くけれど、ジャンクDNAと呼ばれているような部分は直接的な機能の有無にかかわらず、おそらく上記の代謝異常のような変化を起こすためのマージンが大量に含まれているのではないかと思っている。

熱帯化や氷河期などの大幅な環境の変化に対する適応する余地を残しておくこともまた生き残るための最適化の一つだろうから、ある程度のムダを残しつつそれをマージンとして使えるほうが、現在の環境に過度に適応するよりも長い目で見ればかえって生き残りやすい、という事を自然が選択しているようにも見える。

だから、一見ムダのように見えるジャンクDNAも、単なるゴミではなく哺乳類における脂肪に相当するような、生存と進化に必要不可欠なものとして自然が選択したのだろうと考えている。環境の変化が少なければ脂肪が少ない方が効率が良いけれど、変化が激しければ脂肪の蓄積能力が生死を分けることもある。

コンピュータ上で複雑系や自然選択を行うようなシミュレーションを作ってあれこれと試していて感じたこととして、一般に急速に最適解に近づこうとする系ほど環境の変化に弱く、局所解に陥りやすいうえに小さな変化がきっかけで簡単に絶滅してしまいやすい。逆に、局所解に陥りにくい系は大きな変化が起こってもそれに適応できる可能性が高いものの、最適解に収束するのには時間がかかるし、最適解が見つかったときの全体のばらつきも大きい。

実際の世界では系の変動の速さ自体も自然が選択するだろうから、その変動速度やムダをどのくらい保持しておくかという要素についてもまた最適化の対象になっているのだろう。

適応にはある程度の時間がかかる。そのラグが存在するために、よく教科書でみかけるような「兎と狐の数」が永久に振動しつづけるような現象が起こる。生態系とその適応地形は、ラグのために常にカオス的な振動・変動を繰り返し、特殊な場合を除けば一意の場所にとどまり続けることはない。生態系の中の生物が変わればそれに伴って環境と適応地形も変わり、両者はとどまることなく変化しつづける。

この世界は遺伝子配列の最適化問題を解こうとしているわけではない。様々なミームたちがその本能に従って自分の形を変えながら増殖しようと試行錯誤している過程で、たまたま適応度が高い遺伝子が環境と相互作用を繰り返しながら生き残るという現象が起こっているだけなのだろう。

自然選択というと常に唯一の最適解にむかって効率的に進みつづけるような印象を持っていたけれど、実際の世界は必ずしもその時点での最適の状態になっているわけではない。おそらくこの世界は神様か誰かが決めたパラメータをもとに、生態系の中の生物とその周りの環境・それに伴う適応地形がお互いにカオス的に変化しながらからみ合い、ある程度の揺れ幅を持ちながら半永久的にうねりつづけているような状態を繰り返しているのではないか、と感じている。