2005-11-05

痒くて目が覚める 痒くて目が覚める - Nao_uの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 痒くて目が覚める - Nao_uの日記 痒くて目が覚める - Nao_uの日記 のブックマークコメント

「自分の担当システムのバグがそば粉のアレルギーの痒みに対する耐性を持ってしまい、原因を調べて修正しようとするのだけど、そのバグは突然変異を繰り返し、何度修正しても新たな痒みを引き起こし続けて止まらない」というわけのわからない悪夢を見た。朦朧とした意識の底で左の足首が痒い事に気づき、昨日寝る前に蚊が部屋を飛んでいたことを思い出す。目の前を何度か横切ったのを見つけて叩き殺そうとするも見失い、あきらめてそのまま寝たのだった。時計を見ると朝の5時だった。

夢の内容を反芻・解釈しつつ足が痒いことを認識しはじめたあたりですっかり眠りから覚めてしまったので、仕方なく痒みを忘れるためにシャワーを浴びているときに、「蚊の妖精学」を思い出した。

「蚊に刺されるとかゆい理由」が蚊の唾液のせいであることはよく知られている。

しかし、ここで当然の疑問が起きる。なぜ蚊は相手をかゆがらせないように進化しなかったのか。

蚊の唾液には血液の凝固を阻止する物質が含まれている。血を吸っているときに血液が空気に触れて固まっては困るからだ。高度に進化をとげた「血液の凝固因子」(傷ができて出血すると、自動的に止血・自己修復アルゴリズムが起動される)をハックするような物質を作れるなら、アレルギー反応が起きにくく(つまり相手をかゆがらせず)血を吸えるように、もうひと進化しても良いのでないか。そうすれば蚊は安心して血を吸えるし、血を吸われるあなたからみても、アレルギー反応が起きないということは、腫れないし、赤くならないし、かゆくならないのだから、お互い良い話にも見える。

実際、蚊のなかにも、刺されるとひどくかゆい種類と、そうでないのがいるのだ。また、動物のなかには、相手をかゆがらせないで血を吸うものもある。これも種類によるのかもしれないが、ヒルはかゆくないらしい。となると、蚊がかゆいのは、絶対に必然的なことでもない、と言わなければならない。

ここで、さらなる疑問がわき起こる。

じつは、すでにハックされているのではないか? かゆくならない蚊は存在するが、かゆくならないゆえに霧箱のなかを透明につきぬけるニュートリノのように、人間に知覚されていないのではないか。ステルス蚊だ。

(略)

何万年だか何億年だかの蚊の進化の歴史のなかでは、ステルシーな蚊も突然変異などで生まれたかもしれないが、長期的には栄えず、淘汰されてしまうと想像できる。「見える」ことによって、すなわち相手をかゆがらせ、怒らせ、自分を殺そうとさせることによって、エリートだけが生き残れるシステムなのだ。もし、のろのろしていても、のほほんといつまでも血を吸っていられるような世界だったら、その蚊たちは、別の原因で自然の厳しさに耐えられない。のほほんとしているところを、蚊を捕食するほかの虫や生き物にひとのみにされてしまうだろう。万一そうならなくても、相手がかゆがらなければ、結局、吸血対象がだんだん滅んで減少してしまうから、自分も滅んでしまう。

蚊のせいでかゆくなることは、あなたにとっても、蚊自身にとっても、滅びないで済むための良い道なのだ。ヒルのような避けやすいものと違い、どこからともなく空気経由で侵入できる蚊であればこそ、それが「悪い」性質を持っていることは、それ自身のためであり、あなた自身のためでもある。

蚊と人間の遺伝子の進化の過程。これが正しいかどうかはともかく、とても面白い。ただ、以前に初めて読んだときには次の部分が気になった。

蚊に刺されるとかゆいわけを蚊中心で説明したが、さらに、人間中心の視点を交えることで、核心をつくことができる。

すなわち、人類と蚊類の進化のなかでは、蚊に刺されてもかゆくならない人間も存在したが、そういう吸血生物などに無頓着な人間は伝染病などにかかる確率が高いので、滅んでしまった。また、蚊が進化して、人間にかゆみを与えないようになろうとするたびに、人間も進化して、蚊の血液凝固因子・拮抗(きっこう)因子を察知できるように反応物質を洗練してきたと。


この文章をはじめて読んだときにはなぜかここの部分に違和感を感じていたのだけど、今あらためて考えてみるととても理にかなっているという事に気づいた。

ついさっき、シャワーを浴びながらだいぶ前に何かのTV番組(探偵ナイトスクープだったか?)で「蚊に刺されても痒くない」という特異体質の人を見たことがあるのを思い出した。その人を蚊取り線香を作っている会社の金鳥の本社に連れて行き、研究のために養殖している蚊が数百匹入った箱に腕を突っ込んで血を吸わせる、という今思い出しても気持ちの悪い映像が流されていた。散々蚊に血を吸わせたあとに箱から手を取り出してみると、その人の腕にはよく見る赤い腫れはなく、まったくの無傷。本人も痒くないらしい。

これを見たときには「蚊に刺されても痒くならない」というのを羨ましく思ったものだけど、よくよく考えてみると「蚊に対して無頓着」というのはとても危ない。過去に同様の突然変異で特異体質を得た人もいたのだろうけど、日本脳炎マラリアに簡単に罹ってしまうために繁殖できずに淘汰されてしまったに違いない。蚊に刺されて痒くなる、ということにもきっと必然性があるのだろう。

また、仮に「痛みを感じない」という突然変異を引き起こしてしまった人はもっと酷いことになるるのだろう。はるか昔に「ムー」でそのような症状の人がいる、というのを見たことがあるような気がする(ソースが怪しい・・・)。人間は幼い頃から痛みによってやってはいけないことに対する学習を繰り返してきているのだろうから、「痛みに対して無頓着」というのは「蚊に対して無頓着」どころではないくらい危険だ。ここまで来ると羨ましいどころの話ではない。怖い。痛みも痒みも、生物として生き残るためには必須なものなんだろう。そんなことを考えながら足が痒いのを誤魔化してみた。



・・・他人の夢の話なんて面白くないだろうし、寝ぼけているときに文章なんて書くものではない。眠いのでもう寝る。



蚊と人間のあいだの「愛」 蚊と人間のあいだの「愛」 - Nao_uの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 蚊と人間のあいだの「愛」 - Nao_uの日記 蚊と人間のあいだの「愛」 - Nao_uの日記 のブックマークコメント

蚊に刺されてかゆくなるということは、人間のほうが一枚上手で 「ばれないように侵入して血液を盗もうとはさせない!」という情報戦における勝利なのだ。

個々の人間と蚊は、それぞれをつかさどる遺伝子が戦争をするための、使い捨て兵器である。

人間は、高度な情報戦だけに頼らず、化学的・生物学的対応(血液の凝固やアレルギー反応)ではなく、手で蚊をたたきつぶすという物理的レイヤーを使うことによって、最終的な勝利をおさめようとする。だが、蚊の物理レイヤーもあなどれない。人間の脳がそれぞれ空間で速度ベクトル・加速度ベクトルを持っている手・足・蚊などに関する多体問題を――いわば非線形二階微分方程式マトリックスを毎秒1万回のペースで――超超高速で数値積分しながらリアルタイムで運動を補正しながらくりだす恐るべきてのひらを、彼女もこの問題専用に最適化された静粛性・低視認性・敏捷性・高機動性のボディ、文字通り命がけで進化させてきた危険回避アルゴリズムにより、巧みにかわそうとする。

蚊の動きは画一ではあり得ない。常にある確率で、人間にとって予測がつかない回避行動をとる。しかし、蚊の回避は完全ではあり得ない。常にある確率で、人間によって撃墜される。この緊張感ある絶妙なバランスによって、両方が存続する。

蚊と人間のあいだの「愛」は、戦闘妖精とジャムの間の「愛」なのだ。