■ 伝えられない冗長性
手技中の急変。
現場はみんな浮き足立ってしまって、部長以外はみんな真っ白なんていう場面、時々あって。
そんなときでも一人落ち着いていたのがトップの人。超人にしか見えなかった。
部長と「その他大勢」とを分けていたのは、「腕の良さ」以外に頭の中身。
- 鉄火場になったとき、下々の頭の中は「203高地」の戦い。目の前の問題を解決するのに全兵力を投入してしまって、他の戦略をとることを考えられない
- 鉄火場で落ち着いている部長は、今やっているやりかた以外に何通りかの方法を考えていて、「これがダメならこうしよう」とか、いろいろ考えているらしい
鉄火場で他の戦略を考えるためには、経験が必要。
ところが、経験を積んだベテランがいる現場では、ほとんどの場合その人が問題を解決してしまうから、「他の戦略」があったことすら知らないまま、急変した患者さんが回復して、歩いて帰る。
冗長性を身につけるためには、乗り切らないといけない問題に直面して、そのときに聞ける人がまわりにいなくて、自分で何とかしないと人が死ぬ、そんな状況に直面することが必要。
昨日と同じリンク先より。
自分の身の回りでも同様の問題が常に大きな壁となって立ちはだかっている。小手先の技術を身につけた程度では、歴戦のベテランの人の安定感には全く及ばない。
特に、「どうしていいのか見当もつかないような難しい問題を、経験に伴う技能・もしくは力技でいいように解決する」みたいなスキルに関しては、自分もそれなりに経験を積んできたつもりではあるものの、未だに太刀打ちできる気がしないと感じることも多い。
いま主戦力として働いている先輩の人たちは、経験の浅いうちから「そのときに聞ける人がまわりにいなくて、自分で何とかしないと人が死ぬ」*1ような場面を何度も潜り抜けて結果を出してきているので、鉄火場になったときの芯の強さが違う。
そのような人たちが上にいてくれるおかげで、仮に大きな問題が起こりそうなときでも未然にいいように回避したり解決したりしてくれるし、判断に困ったときには相談すれば常に妥当と思われる決断を下してもらえたりする。同じような仕事内容でも、その下で動ける時には安心感が違う。
その結果、若手の人が二進も三進も行かなくなるような難しい局面をどうにか解決しないといけないような場面はとても少なくなり、仮に何か上手くいかないことがあったとしても、それを見越した上の人が尻拭いをしてくれる。そのような環境ではなかなか人が育ちにくいし、最終的な結果に対する責任感も薄くなりやすい。
今の時代、新人をそんな状況に置くことなんて許されないから、冗長性は伝えられない。
技術が継承されていく中で、冗長性戦略は失われてしまう。今まで冗長戦略が可能で、低コストと高信頼性を両立できた場面でも、次の世代では信頼性戦略がそれを置き変える。コストはどんどん高くなり、外から見た信頼性は分かりにくくなり…。悪循環。
たぶん、臨床研修の中にスタートレックの「コバヤシマル」試験みたいなものを組み込んでやると、このあたりの考えかたが伝わるんだと思うのだけれど、シミュレーションを本気でやるのはお金がかかるし、それを誰がどう評価するんだか。
- コバヤシマル - Wikipedia
なので、『コバヤシマル試験』のような大勢に影響はないけれど、いろいろ試した挙句に失敗してしまうという経験を味わうことは、特に経験の浅いうちは大きな成長の糧にできるように思う。少々の失敗を苦に若い人に簡単に辞められてしまうこともあったりするので困ることもあるけど・・・。