2007-06-17

[][]炎の門 炎の門 - Nao_uの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 炎の門 - Nao_uの日記 炎の門 - Nao_uの日記 のブックマークコメント

注文していた本が届いた。古本でありながら定価の約4倍というあまり懐に優しくない価格ではあったものの、それだけの価値があるくらいに面白い。

テルモピュライの戦いを偶然生き延びてペルシア軍の捕虜になったスパルタ戦士の従者が、ペルシア帝国のクセルクセス大王の要請で「どうしてスパルタ軍は最後の一人が討ち果てるまで戦えたのか、スパルタ人とはいったいどんな人達なのか」を伝えるためにこれまでのいきさつを語る、という形式の小説になっている。現在3分の2くらい読み終えて、いよいよテルモピュライでの戦いが始まった、というところ。

新生児は部族長老の面接を受け、虚弱者は山奥の洞穴に遺棄された。男子は7歳で家庭を離れ共同生活を送り、12歳から本格的な肉体的訓練とスパルタ人としての教育を受けた。軍事訓練の一つとして、ヘイロタイから物を盗み殺害することも奨励された。こうして、彼らは質実剛健、忍耐と服従を身につけ、18歳で民会の全会一致により成人の仲間入りを果たした。こうした人材育成はスパルタ教育と言われる。

こんな無茶苦茶な社会構成の中でどんなふうに生活してたんだろうと疑問に思ってたけど、小説の中でははみんなそれを当たり前のこととして、思ったよりずっと普通に暮らしている。当時のギリシアでは同じギリシア人のポリス同士の抗争がとても激しく、戦争に負けて他のポリスに蹂躙されるくらいなら少々厳しくても普段から負けない体制を作っておいたほうがむしろ楽だったりしたのかも。

普段の訓練でも常に戦場を意識して自分たちを律し、実際の戦いの中にあっても興奮や恐慌に陥ることなく、いつもやっていることを淡々と当たり前にこなしていくだけ、という姿勢が全員に徹底されているのは面白い。非人間的な環境で生き延びるには、非人間的な状況に適応する必要があるのかもしれない。所詮は小説で描かれていることなので実際はどんな風だったのかはわからないけれど、日本でも半世紀くらい遡れば今とは全く違った体制だったことをと思えば、それほどおかしくもないのかも。

とはいえ、こんな特定の状況下に部分最適化されたような体制は、外に広がることも長続きすることも難しいようではあるけれど。

ペルシア戦争後は、デロス同盟の盟主であったアテナイとの対立を深め、ペロポネソス戦争へと突入した。籠城戦を選択したアテナイに疫病が蔓延したこともあり、前404年に勝利してギリシアの覇権を獲得した。しかしその勝利によって流入した海外の富が突然の好景気をスパルタにもたらした。質実剛健を旨とするリュクルゴス制度は大打撃を受け、市民の間に貧富の差が生じたため、スパルタ軍は団結に亀裂を生じて弱体化した。紀元前371年、レウクトラの戦いでエパミノンダスに率いられたテーバイ軍に破られ、覇権を失った。

突然の好景気のために崩壊するとは。こういう社会ではまさに「贅沢は敵」なんだなぁ・・・。