■ [自転車]明石大橋 
しばらくの間、実家の愛媛に帰省していた。
休暇がＧＷやお盆にちょうど重なる機会は少ないため、久しく会っていなかった人たちと会えてとても楽しかった。今後も機会があればできるだけ帰るようにしたい。
で、昨日の朝に大阪に戻ってきたのだけど、帰ってきた日は一日何もする気が起こらず、無為に過ぎてしまった。帰省時が本当に楽しかっただけに、一気に現実に引き戻された感じがする。こんな過ごし方を続けていてはせっかくの残り少ない休みがもったいないので、今日は自転車で明石大橋まで行ってみることにした。
自転車で走りながら、愛媛への帰省の途中にお見舞いに寄った、淡路島の祖父のことを思い出していた。祖父は３年ほど前に脳梗塞で左半身が動かせなくなり、そのまま入院して現在に至る。もう何年も寝たきりでベッドから動けず、最近は喉の筋肉が弱って食べ物が飲み込めなくなり、点滴で栄養を得ているそうだ。
年とともに血管が硬くなっていくせいで点滴の注射針が綺麗に入らなかったり、炎症を起こしたりして痛みを伴うことが多いらしい。動けない苛立ちや、点滴の針の痛みが続くせいで癇癪を起こし、点滴の管をハサミで切ったりしたこともあったそうだ。ちょうど自分が行って祖父と話をしている最中にも針が動いて点滴が漏れ、再度針を刺しなおすというトラブルがあった。こういったトラブルや入浴のたびに針を刺しなおす痛みは、常に祖父を苦しめ続けているようだった。
祖父としばらく話をしていて感じたのは、少し耳が遠くなっているのと左半身が動かないせいで言語がやや不明瞭なことを除けば、思考そのものは元気だった頃とまったく変わらないようだった。寝たきりで動けなくてすることがないために、祖父が生まれてから今までにあったことを順に思い出すのが唯一の楽しみだそうだ。自分が行ったときには、５年前の祖母の葬儀のときにも聞かせてもらった、第２次世界大戦当時の話をしてもらった。
戦争が始まって祖父にも召集令状が届いて満州に行くことになったものの、体があまり丈夫でなかった祖父は通訳担当としてロシア語か韓国語のどちらかを勉強することになった。そのときの言語はロシア語を選んだそうだ。研修を受けているうちに終戦になり、祖父はロシア語がわかるために終戦間際にやってきたソ連の捕虜となり、シベリアで戦後の６年間を過ごすことになった。
シベリア抑留中はソ連兵と仲良くなってレンガの積み方や家の作り方を教わったり、凍った港に泊まっている船の下の氷を掘ってドック代わりにし、そのまま船のメンテナンスを行ったりもしたそうだ。祖父にこの頃の話をきかせてもらうたびに「楽しかった」と言ってはいるものの、寒さの厳しいシベリアでの捕虜生活は、きっと楽しいことばかりではなかったのだろうと思う。一緒に抑留されていた人でも、日本に帰ることができずにそのまま向こうで亡くなった人も多かったらしい。ちょうど帰省途中のバスの中で司馬遼太郎の「ロシアについて」を読み終えたところだったので、シベリアの歴史や地理、自然の厳しさについてなど、以前に同じ話を聞いたときよりも深く理解できたように思う。その抑留時の影響か、祖父はやや共産主義寄りの思想を持っていたようで、帰国してからも伯父が大学進学を学費の問題で断念することになったのも、そのような思想を支える一因であったようだ。
祖母のほうは５年前に心臓の手術中に急逝してしまったのだけど、祖父曰く「あんなふうに死ねたなら楽でよかったのにな」と。「食べられない」「動けない」という状態で何年も過ごすのは本当に大変なことのようだ。自分にはなにもできないけれど、折を見てまたお見舞いには行きたいと思う。
そんなことを思い出しながら今日の往路は順調に進んだのだけど、明石大橋につく頃には天気予報どおりに雨が降り始め、帰り道では本格的に振りだしてしまったために帰路は散々だった。服はびしょ濡れで気持ち悪いし、雨のせいか体も重い。雨粒で視界も悪く、タイヤの泥除けが役に立たないせいで体中泥まみれで、目や口にも雨や砂粒が入ってきて困る。挙句の果てにこんなときに限って後輪がパンクし、今日の帰り道は本当に大変だった。それでも、少々しんどかろうが数時間経って家に着けばそれまでだし、たとえ今現在の状況がどうであれ、この先時間が過ぎれば何かもっと良いこともあるかもしれない、と考えられるだけでも幸せなことなのかもしれない。「若い」ということの価値というのは、きっとそういうことなんだろう。とはいえ、時間はどんどん過ぎていく。とりあえずは、部屋の片づけをしないと。
先日作ったGoogle Mapsで距離を測るツールを使って今日走った経路を測ってみたところ、本日の走行距離は約108.6Kmだった。
