■ 記憶を変えるドラッグは五年から十年の間に入手出来るだろう。そしてそれは、我々の生活を変える。
beta-blockerという、血圧を調整するドラッグを利用すれば、悲劇についての記憶の生成を留めることが出来るってことがラットで判明しました。で、次に行われた人間への実験では、proporanololというbeta-blockerの一種を使って(勿論被験者の合意の後で)、投与から三ヵ月後にそのstressfulな出来事を再度思い出してもらうということを行ったようです。結果、プラシーボ組は43%が生理学的なストレス反応を起こした一方で、proporanolol組はゼロ%だったとのこと。("Pilot study of secondary prevention of posttraumatic stress disorder with propranolol")
まぁ、他にもD-cycloserineとかhydrocortisoneとかを使う方法もあったりするそうで。他の刺激でもいけそうな予感。
神経科学ではお馴染み、ノーベル賞のEric Kandelです。意訳すると、「最早、このタイプの記憶(辛い過去)の消去技術が将来存在することは疑いない。我々は今、これが倫理的に受け入れられるかを定めなければならない」。と、Kandelでさえこんなことを言っております。
辛い記憶を消す薬が作れる、と。仮に今それが目の前にあったとして、使っていいものかどうか。
■ しあわせの理由
今月の日経サイエンスで「脳にチップを初めて埋めた男」の記事を読む。
同記事でやはり目を惹くのは、大脳辺縁系の中隔という領域を刺激すると強い幸福感が得られるという記事。この強烈な幸福感が富める者たちの一時の享楽の道具になるか、そうでない者たちの唯一無二の最終娯楽になるか【そうでないとはおれカネゴン】。
この技術が普及してしまったら、これまで統合失調症に伴う妄想の定番だった「誰かが自分の身体に機械を埋め込んだ」が一気に現実味を帯びてしまうため、次なる妄想のベースの提供が望まれる。
どんなに議論を尽くしたところで、遅かれ早かれ刑罰または表彰のために脳にチップを埋め込むことは一般化すると思われるので、現実を後追いするしかないことを承知でチップ埋め込み法をしぶしぶ整備するしかなさそう【雷怖いおれカネゴン】。まずはノーベル賞/文化勲章/紫綬褒章などをチップ埋め込みという形でどしどし授与しまくることから始めてみたい。
悲しみを消すだけならともかく、多幸感まで得られるのは危険な匂いがする。
昔、星新一の小説でも似たような幸福感を得られる機械が題材になったものがあったような。それを使えば幸せな気分になれるはずなのに、そこに恐怖を感じてしまうのは何故なのか。
■ 鍼術が脳に影響、痛みを麻痺させる効果を確認
この度行われた研究によれば、鍼術によって脳が非活性化させられる効果が発見されたとのこと。実験では、鍼術を施した被験者の脳をMRIスキャンし、そこで実際に鍼術が脳に作用している事が明らかにされたという。またこの発見はこれまで中国を中心にたびたび行われる、薬物麻酔を用いない切開手術を説明する手がかりとなる。また今回の研究では、鍼術によって実際に脳の辺縁系=痛みを認識する部位が非活性化されることが発見され、如何にして鍼術が鎮痛効果を持つのかを明らかにすることが期待されている。
今回の実験に参加した被験者らは、鍼術が施されている間、何かもぞもぞとした感覚は感じたものの、痛みは感じなかったと語っている。また科学者らは、これまで薬物やほかの医学療法によって、脳の一部位が活性化されることは数多く目にしてきたものの、こうした逆作用を目にし、その驚きを隠せなかったという。
また今回の実験に伴って、サイクス博士は実際に中国を訪れ、そこで鍼麻酔によって開胸手術が行われる模様を視察したという。鍼麻酔とは、通常の薬物麻酔を用いずに、鍼のみで患者の痛みを麻痺させ、患者が意識の有る状態で(脳や胸部の切開)手術を行うという手法である。また患者は意識があるため、医師と会話しながら手術を行うことさえ可能であるという。
こんな方法でも脳に影響を与えられるらしい。恐るべし、中国3000年の技術。