■ [開発][デザイン]ゲーム製作の転換点
ゲームを作る過程で、大きな転換点となるような場面がある。
面白いゲームはほとんどの場合、基本コンセプトとは別にそのゲームに特有の良いシステムを持ち、そのシステムによってゲームの幅が大きく広がっていることが多い。そのようなシステムがゲームの製作過程のどのタイミングで導入されるのかは製作者の作り方や姿勢によっても違うだろうけど、ゲーム自体がプロジェクトの開始時点からそのシステムを軸にするような形で作られることもあれば、ゲームを面白くするための長い試行錯誤の末に天啓のような形で得られることもあったりする。それがどのような形であるにせよ、そのゲームの遊び方や流れを決定付けるようなシステムやルールが決まるタイミングは、その後のゲーム作りの工程に大きな影響を与える分岐点となることが多いように感じている。
何年か前に洞窟物語の開発中バージョンを見せてもらったときに、遊んでみて一番気になった点が「武器・弾薬の消費システム」だった。開発中バージョンの武器システムは完成版とは違って「敵を倒すと出現するお金を集めて、武器や弾薬を買う」という形式になっていたのだけど、このようなシステムの欠点として、
- 弾を撃ちまくるのが楽しいゲームのはずなのに、もったいなくて連射できない
- 敵を倒すのに消費する弾の値段と、もらえる金額との収支を無意識に計算してしまう
- ハマリ防止のための無限武器を用意すると、その武器ばかりを使用してしまう
などがある。開発中のバージョンでは、ちょうど上記のような、弾を買うシステムのゲームでよく起こってしまう問題に直面していた。開発途中のものとはいえ、小気味の良いアクションや敵を倒す爽快感はこの時点でも現在のものとほぼ変わらずよくできていたために、余計にこのようなシステムの悪い部分が目に付いてしまうような状態だった。
このシステムが最終的にどんな形に落ち着いたのかは洞窟物語をプレイした人であればご存知だろうけど、完成版では「敵を倒すともらえるエネルギーを集めることで武器がレベルアップして強くなり、敵からダメージを食らうとレベルダウンする」という一風変わったシステムになっている。
完成版で導入されたこのシステムには、
- 基本的にシンプルでわかりやすく、説明されなくともゲームを進めていくうちになんとなく理解できる
- ダメージによるレベルダウンの存在があるため、ザコ敵との戦闘であっても常に程よい緊張感を持たせられる
- ノーダメージで強力なパワーアップ状態を維持することが快感に繋がる
- レベルに応じて性質が変わる武器や、パワーアップすると逆に弱くなる「ネメシス」ような特殊武器などの多彩な武器を作ることができる
などのたくさんの利点があり、この武器システムはゲームの流れに創意工夫の余地や戦略性を付加し、絶妙に取られたバランス調整と絡んでこのゲームを支える軸の一つとなっている。このシステムの成立過程にはマリオやゼルダ、メトロイドなどのオールドゲームの影響も感じられるものの、他のゲームに似たシステムの見られない、よく練られていて完成度が高い独特のシステムであるように思う。
製作工程での実装コストも開発中バージョンのショップ制よりは完成バージョンのレベルアップ制のほうが低く抑えられるだろうし、バランス調整も現行の方式のほうが容易に行える。開発中バージョンと最終版の間にどのような試行錯誤があったのかはわからないけれど、このシステムを思いついた時点で必然的に、今ある各種武器のレベルアップ特性やそれにあわせた敵配置、「ネメシス」のようなネタ武器などがゲームに組み込まれていく流れになったのだろうから、このシステムを思いつくかどうかは洞窟物語が今のような内容として成立するための大きな分かれ目になったのではないかと想像する。
このようにゲームの製作過程で、ある一つのアイデアを導入できるかどうかがその後の工程や完成品の内容に大きな影響を与えることは多いように思う。
前フリが長くなってしまったけれど、ちょうど今日、そのような転換点となりうる新しいシステムの導入が決まった。チーム全体の規模から見ればごく小さな修正だし、作業量だけみれば比較的小規模なシステムの追加でしかないけれど、ゲームを遊んだときに感じる楽しさには大きな違いがでるだろうと期待しているし、このような分岐点の積み重ねが最終的なゲームの仕上がりや完成度の大きな違いとなって現れてくるのだろうと思う。
昨今のゲームの開発は規模の拡大とともにウォーターフォール式に要求仕様にしたがってシステマチックに作業が進んでいくような製作工程になってしまうことが多いけれど、個人的にはチーム全体から常に活発にアイデアが出て、それを状況にあわせて柔軟にゲームに組み込んでいけるような開発体制の方がずっと面白いものができるだろうと信じている。市販のゲームを遊んでいて「少し修正するだけでもずっと良くなりそうなのに・・・」と思うことがあるけれど、そのようなゲームではこういった自浄作用が上手く働いていないのだろうな、と感じることも多い。
それこそ下手をするとこんなのを素直に笑えなかったりするような状況になってしまうこともあるだろうし、スケジュール調整やメンバー間の意思疎通など単純にはすまない問題もあるだろうけど、そこはメンバーの各人がそれぞれ意識してアジャイル的に動けるようにしていくことで、開発そのものを楽しみながらより良いゲームを作れる環境に持っていくことはできるだろうと思っている。